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 寄せ書き 
谷章「『ショートショートの広場』と星先生、そして江坂遊さん」

元・講談社文庫担当者
 講談社文庫版『ショートショートの広場』(星新一☆編)を先輩編集者から引き継いだのは、シリーズの4巻目(1992年9月刊)だったと記憶します。 この時からカバーの挿画が守谷信介氏にかわりました。とてもポップな画風で本シリーズにぴったりでした。

 星新一ショートショート・コンテスト(「小説現代」誌が募集)で先生が選んだ作品(満点は10点で7点以上からさらに厳選)を読むのは楽しみでしたが、巻末の的を射た選評もワクワクものでした。 作品名を入れても2行ほぼ50字前後、ときに1行でスパッと25字、長くても3行で90字以上はいかない。 星先生は若い書き手たちの投稿作品をきちんと読み(時に再読もし)、コメントしていました。

 選評のあとで応募者にこんな苦言を呈することもありました。
 曰く「最近の応募作は、キリッとしたのが少ない。 描写や文章に重点がいっている。 文学的という思考にとらわれては、その線は越えられない。 お考え下さい。」(8巻目より)。

 先生は、ショートショートやSFが大好きで熱心に投稿してくる若者たちを愛していましたね。 素人だからと上から目線で見ることはなかった。 プロ中のプロの作家でいながら、優れた作品を生むまでの苦しみは、彼らとて同じだろうと考えていた。

 そんな書き手たちの中に江坂遊さんがいました。

 私は江坂さんの文庫第一作『あやしい遊園地』(1996年3月刊)を担当、刊行は星新一☆編『ショートショートの広場』の新刊(7巻目)と合わせて同時発売。 巻末の解説文を先生にお願いしました。 郵送で生原稿が届いた時のうれしさといったら……。

 一読、驚きました。困惑に近い驚きです。

 冒頭「私はこの文章を以って、文庫の解説なるものを書くのはやめる。 もったいぶっても、数えるほどしかやっていないし、残念がることでもない。 しかも、江坂さんの本を機会にというのは、華があっていい」と。 うぐぐ。はじめて頂く解説原稿が最後になるとは!

 文中、江坂さんの事実上のデビュー作「花火」(1980年:第2回ショーショート・コンテスト最優秀作)について回顧、そのシュールなイメージに感心し、自分には書けないとまで述べている。 そして、自身の若い頃を思い出したのか、唐突に江坂さんの年齢(当時26歳)まで明かしている。

 最後に「もう、誰の本についても書くことはないだろう」と念押しし「念のために記しておくが、江坂さんはこれからも、大いに執筆をつづけるのだ。 いっそうのご愛読を」と〆ている。 先生の予感と期待は当たりました。

「花火」発表から40年、江坂さんは先生の熱いエールを胸に秘めて、今も(ほぼ毎日!)ショートショートを書き続けている。

 星新一☆編『ショートショートの広場』は1998年の9巻まで続き(前年の12月に先生はお亡くなりになった)、世紀をまたいで阿刀田高さんに引き継がれた。 私自身も大病をきっかけに文庫出版部を離れた。 振り返れば90年代の若き書き手たちのショートショート・ワールドと並走していた感があります。


2021年1月

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