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 寄せ書き 
小野純一「ショートショートの棚」

古書店「盛林堂書房」店主
 街の古本屋を営んでいると、いろいろな方が本を探しにいらっしゃる。
「○○という作家の本はありませんか」
「○○が載っている本は?」
 そんな時はお客様の目的の本があるであろう棚を紹介したり、運良く在庫がある場合は、在庫の本を紹介したりといった感じである。 専門、と言うにはおこがましいが、SF・ミステリを他店よりは多めに扱っている古本屋ということもあり、やはりSF・ミステリを探しにいらっしゃる方が多い。

 そんな日常の、ある昼下がり。二十歳代くらいの男性のお客様がご来店され、
「ショートショートの棚はどこですか?」
 とのご質問。

 ちょっと困ってしまった。「ショートショート」で棚作りをしている新刊書店・古書店がどのくらいあるのだろうか。 新刊書店なら「星新一生誕○○周年」とか、「○○ショートショートアンソロジー刊行記念」といったタイミングで、特集棚を作る店舗もあるだろうが、古本屋ではなかなか試みる店舗は少ないのではないだろうか、と思ってしまった。 私が営む店舗でも、星新一をはじめとしたショートショートを世に送り出した作家の本を扱ってはいるし、SF・ミステリをそれなりに在庫している店とはいえ、「ショートショートの棚」は流石に作っていない。 少々困りながら、そのお客様には、「ショートショートの棚」は無いが、ショートショートを書いた作家の書籍や、ショートショート作品の掲載された書籍は在庫していることを告げ、お客様と一緒にショートショートの掲載されている本探しをすることに。 棚からショートショートを書かれた作家の本を取り出し、中身を確認、ショートショートといえる作品が掲載されているとお客様にお勧めする、ということを繰り返す。 しかし、そのお客様は何か釈然としない雰囲気。

 う〜ん、ギブアップかと思いながら、SFを納めている棚を見ると、星新一が一冊入っていることに気づき、お客様にお見せすると、
「あっ! これです!!」
 という雰囲気に。在庫している星新一の書籍を数冊紹介し、その中からお気に召した二・三冊の本をご購入いただいた。

 満足して頂けたご様子のお客様の背を見送りながら、このお客様は「ショートショート」を探しに来たのではなく「星新一」を探しに来たのではないか、と思った。 そう考えると合点がいく。 そのお客様にとって「ショートショート」とは「星新一」のことだったのだ。

 これは、今回のお客様特有の考え方だったのだろうか。 私も含めたSF読みにとっては、「星新一」はSF小説家であり、「ショートショート」の日本でも代表的な執筆者であるが、一般的な認識では、「ショートショート」=「星新一」なのであり、「星新一」が文学の一ジャンルとして取り扱われているのかもしれない。

 初対面でどんな仕事をしているかを聞かれて、古本屋を営んでいることを話すと「本は苦手で古本屋にはほとんど行きません。あ、でもショートショートなら何とか読めるかも」という方が時々いらっしゃる。 この場合の「ショートショート」もおそらく「星新一」の作品のことだろう。 小学校の教科書に載っていて、中学校の課題図書で指定されていて、読書が苦手な人でも唯一面白かったのがショートショートで、星新一なのだと思う。 そのくらい多くの人々に知れ渡り、読まれている作家なのだと、お客様を見ていると思うことがある。


2017年9月

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