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 寄せ書き 
濱田貴司「贅沢な時間」

作曲家
 2017年2月11日、横浜某所にて、星新一さんの作品「箱」を演じさせていただきました。

 私は、作曲家です。 いわゆる歌モノでデビューしたのですが、共に活動していたシンガーの引退に伴って作曲家活動を開始し、今は、映画やテレビドラマの劇中曲を手掛けさせていただくことが多くなっています。 そんな私のワンマンコンサートでは、朗読劇と、音楽のコラボレーションを行うということが定例になっていました。 これまでは、友人の脚本家による書下ろしという形をとっていましたが、恐れ多くも、星新一さんの短編小説を演じてみたいと思ってしまったのです。 快く許してくださった関係者の皆様には、心から感謝を申し上げます。 そして、美しささえ感じる見事な朗読を演り遂げてくれた俳優の福士誠治さん。 彼の技をもって、とても完成度の高い贅沢な時間を作り上げることができました。

 大変おこがましいのですが、星新一さんの作品について一人のファンとして、その世界観を表現するとすれば。

 繊細な心の揺れる様と、その背景にある壮大な映像美

 誰しもが前後左右に揺れる日々の心が、けして何処かの角度から決めつけることなく、あるがまま丁寧に、優しく、きめ細やかに描かれ、そして様々な、ときに奇想天外な舞台背景を用意しながら、いつもそれは、奥行きのある立体感と、光を感じる美しさに包まれているようです。

 私はこの、あまりにもダイナミクスに富んだ世界に対して、音楽の持つ表現力を全部出し切ったとしても、一つの舞台の上にまるでそこに小さな宇宙が存在するかのような、バランスのとれた世界を生み出せるのではないかと直観しました。

 この度、演じさせていただきました

 「箱」

 描かれている世界観をなぞる様に、始まりは静かに、雫が水面に落ちるようなグランドピアノの音色で空気を響かせ、そして、次第にバイオリンや、オーボエ、フルートと言った心情を彩る豊かなサウンドを加え… やがて、オーケストラの重厚な説得力。 ときには、激しいスネアドラムとマリンバの躍動で、焦燥感を煽り… そしてラストシーンは、牧歌的なアコースティックギターフレーズから始めながら、主人公が辿り着いた境地を描くべく、満天の星空を想像するような極めて壮大な音楽表現で締めくくりました。

 星新一さんに失礼のない舞台を演じきれたのかどうか、自分の中に確信はありません。 ですが、観客の皆様から頂いた拍手は、本物だったと記憶しています。 立ち上がっている方、涙を零している方、手を上げて何かを叫んでいる方。 ただ、皆様の表情は、どれも、とても… 清々しかった。

 何度も申しますが、星さんの作品に挑戦してしまった身の程知らず振りは自覚しております。 ですが、関係者の皆さま、そしてファンの皆様からお許し頂けるのであれば、また共に、ステージに上がらせていただければと願っています。 映画やテレビドラマのように映像で全てを描き切ることが、きっとより直接、作品を皆様の近くに届けられるのだと思うのですが、朗読と音楽という表現は、それでもまだ多くを皆様の想像力に委ねる方法になってしまいます。 ですが、だからこそ、無限大とも言えるのではないでしょうか。 たとえばその場を小節の中で描かれているどんな場所へもお連れすることができるかもしれないと思うのです。

 これまで時代劇やファンタジー、サスペンスやミステリー、青春を描いた物語など、数多くの作品に携わらせていただきましたが、そこで学んできたこと全てを投じても、当然のように凛と佇まう、星新一さんの作品の存在そのものに、私は、心から、敬意を表します。

 この度は、このような権威ある場所に、私の言葉を掲載していただけることを誇りに思います。 機会を与えてくださいました皆様、誠に、ありがとうございました。


2017年11月

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