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 寄せ書き 
之人冗悟「星新一に出会ったばっかりに……」

語学屋・日経「星新一賞」グランプリ受賞者
 英語の定型句に「You'll never be the same after… (…に出会ったその後は、あなたの人生、変わっちゃうよ)」というのがあるが、少年期の星新一との出会いは自分にとってはまさにそれで、あれで人生(というか、人格)が変わってしまった自覚がある……  が、なにせ小惑星衝突級の出会いだけに、その巨大なインパクトに対しては逆に「あぁ、人生で最初に夢中になって読んだのが星新一じゃなければなぁ」とかグチりたい気分も、ないではない……  ちょっとその愚痴、列挙しちゃおうかな:


■ 短い中に起承転結のギュッと詰まった濃密な作品や、前に出会った作品とは違う輝きを放つ作品でないと、(ダレてやんの!)と思っちゃう:


 どの新作にも焼き直しのないストイックな新鮮さ、一作ごとに新たな挑戦を続ける開拓精神に満ちた真のファンサービスの上質さを、星新一の文庫本(とビートルズのアルバム)に教わった自分は、その反動で「継続的商業展開(のみ)を見据えてパターン化された作品群」というやつにはどうにも我慢ならぬ(『宇宙のネロ』っぽい)贅沢体質に育ってしまった。


■ 作品世界構築力で勝負せずに文体や作者の人生で言い訳してる作品を見ると、(甘えてんじゃねーぞ!)と突き放したくなる:


 作家(や文体)が作品世界の「黒子」に徹する星新一のショートショートや芥川龍之介の『蜘蛛の糸』のような短い言語空間上での映像的訴求力に満ちた良質な「作り話」に酔いしれた思春期の読書体験の後では、いわゆる純文学(というか私小説という名の日記帳)にはもうあまり魅力を感じなくなってしまった。 ネロ君は、「リアル(=生身の告白してるんだから、真剣に聞いてくれ!)」な訴えへの相槌より、「ファンタスティック(=作り話なんだけど、面白かったら買ってください)」な美味への舌鼓が、打ちたいのである。


■ 「時流」の尻馬に乗って「時」の風化作用の前に敢えなく消え去る(のが見えてる)仕事を見ると、(早く切れちまえ、この蜘蛛の糸!)と溜息吹きかけたくなっちゃう:


 星新一が古びることなく読み継がれるのは、「period pieces=ある特定の時代思潮の証言録としての作品」とは異次元の「timeless pieces=時の風化作用を受けぬ作品」だから。 歴史物は書いても時事モノは書かぬ星新一の超時性作品群で純粋培養された自分の感性には、「今が旬!の何かを巡る大騒ぎ」は、「今しか意味のない空騒ぎ」の類義語。 「旬!」もいいけど、「瞬間」で終わってもらっては、困るのだ。


■ 何気なくサラサラッと示されたものの陰にある準備のスゴさ、それを感じさせぬ仕事が出来る本物のプロの凄味に心酔する反面、その対極に位置する連中に対しては(楽屋裏の苦労話でメシ食うなよな!)の罵倒語が胸中に荒れ狂い、なだめすかすのが大変:


 中学時代に最初に読んだ『ボッコちゃん』と『ようこそ地球さん』の二冊だけで(星新一って、天才だ!)と思い込んだ自分は、高校生になってから読んだ彼のエッセイで、その創作の陰にある苦闘の一端を垣間見せられてから、こう思い直した。 (作品を生み出すまでに大変な苦労をしていても、それを大変に見せずにサラリと心地良い見せ物として提供できる人、それが本物のプロなんだ……  こういう人のことを安直に「天才!」と呼んで、その偉業を「作者」ではなく「天分」の功績にしちゃうのは、陰の苦闘を無視したひどく無礼な仕打ちだな……  でも、「陰の努力」を感じさせぬところまで徹底的に「陰で努力」するのがこういう人の誇りというかプロ魂なんだろうから、「努力家」とか呼ぶのもやっぱり失礼だな……  じゃ、何と呼ぼう?)  ……この名称問題は、「スゴい」とか「本物」とか「超一流」とかの凡庸な感嘆符!を経て、結局何とも手抜きな「星新一的存在」という固有名詞直喩オチで決着、以後、我が輩の辞書は「天才」の二文字の欠落を抱えたままである。



 ……とまぁ、人格形成期の多感な十代に星新一に出会ったばっかりに、なんだかとっても「変わり者のネロ君」に育ってしまった自分だけれど、おかげで昨年(2017年)彼のショートショート世界へのオマージュというか感謝状として書いた『OV元年』で第四回日経星新一賞グランプリを頂戴してしまうというささやかなアクシデントもあったわけだ。 賞金の百万円は一年もたずして消えたが、星新一から受けた小惑星衝突級の影響の方は、一生ずっと消えることはないだろう。

 こんな変わり者を作った責任の全てをなすりつけられたのでは星新一も宇宙の星々の蔭で苦笑するしかないだろうけど、一番の功労者であることに一片の疑いもない彼の名を冠した文学賞もらった上に、ここに「星ファミリー」に交じって拙文掲載の栄誉を賜わったことは、自分にとってはまさに一生モノの誇りです。 (……と、最後だけ妙に殊勝なネロ君は、愛犬パトラッシュと星ヅルたちに囲まれて宙にも昇る気持ちなのでした)


2018年6月

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